
福井 立拓(ふくい りゅうた)
早稲田大学先進理工学部4年。
男子アルティメット部主将。大学から競技を始める。ディープとして得点を担い、U24日本代表として世界大会に出場。
早稲田は2018年、2019年、2021年、2022年と大学選手権4連覇を達成したが、近年は3位・3位・準優勝と王座から遠ざかる。ラストイヤーでの日本一奪還を掲げる。
古橋 凜子(ふるはし りこ)
早稲田大学人間科学部4年。
女子アルティメット部主将。中高ではハンドボールで関東・全国大会を経験。大学から競技を始め、U20日本代表として世界大会に出場。
女子部は全国上位常連ながら決勝進出経験はなく、日本体育大学が7連覇を続ける中で、決勝進出とその先を目指す。

止まらない競技。判断がすべてを分ける世界

アルティメットはアメリカ発祥の7人制スポーツだ。フライングディスクを使い、エンドゾーンでタッチダウンパスに成功すれば得点となる。構造はアメリカンフットボールに似ているが、決定的に違う点がある。ディスクを持ったまま走ることはできず、身体接触もない。
そしてこの競技の最大の特徴は、プレーが止まらないことだ。パスが失敗した瞬間、即座に攻守が入れ替わる。一瞬の判断が、そのまま試合の流れを左右する。
さらに、ディスク特有の軌道もこの競技を難しくしている。風の影響を受け、浮き、沈み、時には戻る。同じスローでも状況次第で結果は大きく変わる。アルティメットは単なるフィジカルスポーツではなく、空間を使い、状況を読み、最適な判断を積み重ねる競技なのだ。
未経験から、日本一を目指すという選択

福井の原点は野球だった。神宮の舞台への憧れを持ち、大学でも続けるつもりでいた。しかし、現実は厳しい。セレクションに挑戦するも、その道は閉ざされた。
そこで彼は考えた。このまま終わるのか、それとも別の形で頂点を目指すのか。選んだのは、新しい競技への挑戦だった。大学で何か一つ、本気で日本一を目指したい。その想いの先にあったのがアルティメットだった。
一方、古橋もまた変化を求めていた。ハンドボールで結果を残してきたからこそ、同じ道を続けることに迷いがあった。大学では新しい競技に挑戦したい。その中で選んだのがアルティメットだった。決め手は、競技の面白さと、未経験からでも高いレベルを目指せる環境だった。
その選択が、二人を世界へと導くことになる。
ポジションに宿る役割と強み

二人が担うのはディープというポジション。ゴール前でディスクを受け取り、得点につなげる役割だ。ただしアルティメットは完全な分業制ではなく、全員が投げ、走り、受ける。その中でディープに求められるのは、空中戦とスピード、そして判断力である。
福井は、野球で培った走力と空間認識を武器にする。滞空するディスクの落下点に入り、競り勝つ。古橋は、ハンドボールで身につけた対人感覚を活かす。間合いとタイミングで相手を外し、スペースを作る。異なる競技で培った経験が、新しい競技の中で形を変えて活きている。
世界で知った現実と可能性
アルティメットには世代別の世界大会がある。福井はU24日本代表として、スペイン・ログローニョの地に立った。各国の代表が集う中、空気はこれまでの大会とはまったく違っていた。
試合が始まると、その違いはすぐに現れる。相手は大きく、速く、そして迷いがない。ディスクが空中に上がる。その瞬間、空中戦はすでに始まっている。一歩遅れれば、すべてを持っていかれる。福井はそう感じていた。
それでも、自分のプレーが通用した瞬間があった。ロングパスに反応し、競り合いの中でキャッチをもぎ取る。その一瞬、世界と対等に戦えている実感があった。結果は世界5位。満足ではない。それでも確かな手応えが残った。
一方、古橋の舞台はイギリスだった。初めての海外、初めての世界大会。空港に降り立った瞬間から、空気も匂いも言葉も食事も、すべてが違った。ピッチに立てば、さらに違いを突きつけられる。競技歴の長い選手たちに、体格もプレースタイルもまったく異なる相手。
それでも古橋は、ただ圧倒されていたわけではなかった。初めて合わせるメンバーの中で、どうすれば機能するのか、どうすればチームとして戦えるのか。技術だけでなく、コミュニケーションと判断で勝負した。その経験は、結果以上の価値を持っていた。
大会は6位で終了。悔しさは残ったが、それ以上に大きかったのは確信だった。未経験からでも、世界に届く。この競技には、その可能性がある。
強豪でありながら、届かない頂点
男子はかつて4連覇を達成した王者だった。しかし現在は、頂点から遠ざかっている。3位、3位、準優勝。あと一歩届かない。福井はその中心で戦ってきた。だからこそ、その悔しさは誰よりも強い。
あの一歩を埋めるために、何が必要なのか。技術か、戦術か、それとも覚悟か。答えを探し続けた先にあるのが、今年のシーズンだ。今年こそ、すべてを取り返す。
一方女子は、また別の壁に向き合っている。全国上位には入るが、決勝には届かない。そしてその先には、日本体育大学という絶対王者がいる。まずは決勝に進出すること。そこを越えなければ、景色は変わらない。
崩れかけたチーム、それでも前へ

女子チームは昨年、大きな転換期を迎えた。主力の引退による戦力低下で、勝てない時間が続く。それでも最後に残したのは、全国ベスト4という結果だった。その結果が、チームに再び自信をもたらした。
ただ、課題も明確だった。少数精鋭ゆえの不安定さがあり、誰か一人の不調がチーム全体に影響する。だからこそ今、目指しているのは層の厚いチームだ。誰が出ても戦える集団へ。そのために、新入生勧誘にも力を注いでいる。
ラストイヤー、それぞれの覚悟

4年間の集大成となるシーズン。福井の目標は明確だ。日本一奪還。そしてその先には、再び世界への挑戦も見据えている。次の世界大会で頂点を狙うという、新たな目標だ。
一方の古橋は、大学で競技を終える決断をしている。だからこそ、この一年にすべてを懸ける。決勝に行く。その景色を見たい。その言葉に、4年間のすべてが込められている。
挑戦は、自分で選び続けること
未経験から始めた競技で、日本代表にまでたどり着いた二人。その道のりは、決して特別な才能だけではない。環境を選び、努力を積み重ね、挑戦し続けた結果だ。
アルティメットはまだ広く知られている競技ではないが、そのフィールドには確かな価値がある。未経験からでも頂点を目指せること。世界と戦えること。そして、自分の可能性を更新し続けられること。
日本一奪還か、決勝進出か。目標は違っても、その本質は同じだ。自分の可能性を信じ、挑み続けること。アルティメットとは、彼らにとって競技である前に、自分自身への挑戦そのものなのだ。
取材協力・画像提供 早稲田大学アルティメット部 / 一般社団法人 日本フライングディスク協会
