
長尾 佳太郎
1987年兵庫県神戸市生まれ。京都在住。教員として働く傍ら、アルティメットチーム鴨川ビックルズの代表を務める。2012年にチームを立ち上げ、初心者から経験者、海外プレイヤーまで幅広く受け入れるコミュニティを形成。競技志向にとどまらない、生涯スポーツとしてのアルティメットの価値を体現している。
スポーツは日常の中にあった

子どもの頃、長尾にとってスポーツは特別なものではなかった。外に出て、友人と体を動かす。それが日常だった。
サッカーや野球、さまざまな遊びを通じて自然と体を動かす。競技としての意識よりも、仲間と過ごす時間のほうが大きかった。
しかし高校で再びサッカーに取り組んだとき、その印象は変わる。想像以上に厳しい環境と、経験者との違い。スポーツには明確なレベル差があり、誰もが同じように楽しめるわけではないという現実を知った。
その感覚は、後にアルティメットと出会ったとき、大きな意味を持つことになる。
偶然の出会いがつないだアルティメット
アルティメットとの最初の出会いは、高校時代の体育の授業だった。
水泳が苦手だった長尾は、別の種目としてアルティメットを選択する。ルールも曖昧なまま、ただディスクを追いかける時間。
そのときは特別な意味を持つものではなかったが、記憶には残っていた。
本格的に関わるようになったのは大学院時代。教員を目指して進学した先で、先輩が立ち上げたチームに誘われる。
そこで初めて、競技としてのアルティメットに触れた。
プレーの楽しさと競技の魅力

アルティメットはフリスビーを使ったチームスポーツだ。ディスクをパスでつなぎ、エンドゾーンでキャッチすれば得点となる。ディスクを持ったまま走ることはできない。
シンプルなルールの中に、スピードと戦略が求められる競技だ。
そして最大の特徴は、審判がいないことにある。
プレー中の判定は選手同士で話し合う。意見が食い違えば、その場でコミュニケーションを取りながら解決していく。
どちらが正しいか分からないときは、一つ前のプレーに戻ることもある。
この文化に、長尾は強く惹かれた。
勝敗だけでなく、相手との関係性も大切にする。スポーツの中に、人としての在り方がそのまま現れる。
それまで経験してきた競技とは、まったく異なる魅力だった。
但馬の大会が教えてくれたもの
競技志向で高いレベルの大会を目指す人もいれば、休日のリフレッシュやコミュニケーションとしてプレーする人もいる。
アルティメットには、そのどちらも受け入れる広さがある。
長尾にとって、その価値を決定づけたのが兵庫県豊岡市で開催されていた但馬の大会だった。
競技レベルは決して高くない。男女ミックスで構成されたチーム。芝生の上で、ディスクを追いかける。
走って、投げて、飛ぶ。
そのシンプルな動きの中に、純粋な楽しさがあった。
試合中は真剣にプレーする。それでもどこか穏やかで、相手を尊重する空気が流れている。
そして試合が終わると、チームの垣根は自然と消えていく。
参加者同士で食事をし、言葉を交わし、また翌日には同じフィールドに立つ。
その繰り返しの中で、関係が生まれていく。
スポーツが人をつなぐとはこういうことかと、実感した瞬間だった。
2人から始まったチームの挑戦
大学院での経験を経て、長尾は京都に戻る。しかし、アルティメットを続ける環境はなかった。
それなら自分でつくるしかない。
2012年、後輩と2人でディスクを投げるところからスタートした。
知人に声をかけ、そのまた知人へと広がっていく。少しずつ人が集まり、チームの形ができていった。
最初の目標は、大会に出ること。
但馬の大会で感じた楽しさを、仲間と共有したい。その思いが原動力だった。
人数が足りないときは仲間を呼び、なんとか出場する。大会に出れば、また来たいと思う。
その積み重ねが、チームを形づくっていった。
勝つことと楽しむことのあいだで

チームが続くにつれて、方向性についての意見も生まれる。
もっと練習して勝ちたいという思い。誰でも参加できる場でありたいという思い。
どちらも間違いではない。
長尾が選んだのは、その両方を目指すという難しい道だった。
週1回の練習で高い競技レベルを維持するのは簡単ではない。それでも大会では勝ちたい。
同時に、参加のハードルは下げたい。
そのバランスを取り続けること自体が、チームの挑戦になっている。
なぜ続けるのか

チーム運営は決して楽ではない。
メンバーは入れ替わる。大会に出る人数を集めるのに苦労することもある。場所の確保という現実的な課題もある。
それでも続ける理由は何か。
長尾にとって、それは人とつながる場であることだ。
社会人になると、新しいコミュニティは自然には生まれにくい。その中で、定期的に集まり、同じ時間を共有する場は貴重な存在になる。
さらにアルティメットは、年齢や国籍を越えて人をつなぐ。
若い世代からベテランまで、国内外のプレイヤーが同じフィールドに立つ。
言葉が通じなくても、ディスクを追いかければ関係が生まれる。
その体験があるからこそ、続ける意味がある。
次の世代へつなぐために

現在、チームは新たな段階に入っている。
創設当初のメンバーはすでにいない。それでもチームは続いている。新しいメンバーが入り、また次の世代へとつながっていく。
今後の課題は、若い世代が主体となることだ。
自分たちで考え、このチームをどうしていくのかを決めていく。そのプロセスもまた、このチームにとっての挑戦になる。
スポーツの価値を広げる
鴨川ビックルズが目指しているのは、勝利だけではない。
誰でも参加できる場所。
久しぶりでも戻ってこられる関係性。
年齢を重ねても続けられるスポーツ。
但馬の大会で感じたあの時間のように、人が自然と集まり、つながる場をつくること。
スポーツの価値は、競技の中だけにあるわけではない。
その外側にある時間や関係性こそが、人を惹きつける。
鴨川ビックルズの挑戦は、その価値を問い続けることにある。
京都/大阪のグラウンドで土曜または日曜日に練習開催。初心者歓迎、お気軽にお問い合わせください。
