
石田 ゆき
2005年生まれ、三重県伊勢市出身。京都大学総合人間学部在籍。京都大学体育会ボート部所属。
中学では美術部、高校では漫画部に所属。運動部経験のないまま京都大学に進学し、2023年にボート競技を始める。未経験から急成長を遂げ、2025年の全日本大学選手権女子シングルスカルで3位入賞。現在は大学4年生として日本一を目標に掲げるとともに、卒業後は実業団で競技を続け、日本代表として世界で戦うことを目指している。
運動が苦手だった少女が見つけた挑戦
三重県伊勢市。伊勢神宮の近くで育った石田ゆきは、幼いころから絵を描くことが好きだった。
家の中でイラストを描き、キャラクターを考える。
中学では美術部に入り、高校では漫画部に所属した。
どちらかと言えば、根っからのインドア派だった。
体育は得意ではない。バスケットボールもテニスも苦手だった。成績表では、体育の欄だけがいつも低かったという。
それでも、スポーツをしている人を見るのは好きだった。
何かに打ち込んでいる姿がかっこいいと思っていた。
自分もあんなふうに、全力で取り組めるものがあったらいい。
そう思いながらも、自分には無理だとどこかで決めつけていた。
そんな石田の人生が大きく動いたのは、京都大学入学後のことだった。
一本の映像が変えた未来
2023年春。京都大学に入学した石田は、SNSでボート部のオンライン新歓に誘われた。
大学の新歓には、少し怖いイメージもあった。
オンラインなら気軽に参加できる。そんな理由で説明会をのぞいてみた。
そこで見たのが、ボート部が制作したPVだった。
水面を切り裂くように進むボート。
苦しい表情でオールを握り続ける選手たち。
それでも前へ進もうとする姿。
その映像を見た瞬間、石田の心が大きく動いた。
こんなにかっこいいスポーツがあるんだ。
それまでボート競技のことをほとんど知らなかった。
それでも、その世界に強く惹かれた。
実際に体験会に参加し、初めて水上でボートを漕いだ。
水の上を滑るように進む感覚が、想像以上に気持ちよかった。
それでも、決断するには勇気が必要だった。
運動経験はゼロ。体育も苦手。
そんな自分が本当にできるのだろうか。
迷っていた石田の背中を押したのは、先輩の一言だった。
まず一回やってみたらいい。
その言葉に背中を押され、石田はボート部への入部を決めた。
遅れているという自覚
入部してすぐに感じたのは、自分が遅れているという事実だった。
周囲には運動部出身の学生も多い。
体力も、技術も、自分より上だった。
オールを握っても思うように漕げない。
体力的なきつさにも苦しんだ。
入った部活を間違えたかもしれない。
そう思ったこともあったという。
それでも、石田は諦めなかった。
自分はスタートが遅れている。
だからこそ、できることはすべてやろう。
練習だけではなく、食事や睡眠にも気を配る。
ケアの方法を学び、身体の回復にも意識を向ける。
そして練習では、人より少し多くやる。
ほんの少しのプラスアルファ。
それを毎日積み重ねた。
その努力が、少しずつ結果として現れ始めた。
強い先輩に引き上げられた時間

入部して数ヶ月後、石田は初めて大会に出場する。
関西学生秋季選手権。
新人チームの中でファーストクルーに選ばれ、実力のある先輩と同じ艇に乗った。
その先輩は、高校からボートを続けてきた経験者。
エルゴと呼ばれるローイングマシンのタイムも、部内トップだった。
強い選手と同じ艇で漕ぐ。
その経験は、石田にとって大きな意味を持った。
一緒に漕ぐことで、技術も意識も引き上げられていく。
自分一人では見えなかったレベルが、少しずつ見えてきた。
2年生になってからも、その先輩と長くクルーを組んだ。
石田にとって、競技者として大きく成長した時間だった。
悔しさが次の挑戦を生んだ
2024年。
石田は全日本大学選手権に出場する。
大学日本一を決める大会。
目標はA決勝進出だった。
しかし結果は、B決勝1位。
全体7位。
あと一歩届かなかった。
その大会を最後に、先輩たちは引退する。
もう同じメンバーで戦うことはできない。
自分がもっと強ければ。
その思いが、石田の心に強く残った。
次は自分が結果を出す。
先輩たちと過ごした時間を、結果で証明する。
その思いが、次の挑戦の原動力になった。
シングルスカルという自分との勝負

石田が主戦種目として選んだのは、シングルスカルだった。
一人乗りのボート。
頼れるのは自分だけ。
クルーボートとは違い、誰かに合わせる必要はない。
すべての判断を自分で行う。
いつ仕掛けるか。
どこで勝負するか。
その自由さが、石田には合っていた。
2025年の全日本大学選手権。
怪我を抱えながら迎えた大会だった。
思うように練習できない時期もあった。
それでもできることはすべてやった。
そして結果は、シングルスカル女子3位。
日本の大学生の中で3番目。
運動経験のなかった少女が、全国3位という結果を手にした瞬間だった。
上には上がいる世界
しかし石田は、その結果に満足していない。
決勝で優勝した選手の漕ぎは圧倒的だった。
スタートから飛び出し、最後まで落ちないスピード。
そのスピードを目の当たりにして思った。
この人を超えなければ、日本一にはなれない。
京大ボート部の中で見ていた世界。
全国大会で広がった世界。
さらにその先には、社会人、そして世界の舞台がある。
上には上がいる。
その事実を、石田は前向きに受け止めている。
それこそが、自分を成長させてくれるものだからだ。
挑戦はまだ終わらない
大学4年生。
石田にとってラストシーズンが始まった。
目標は明確だ。
全日本選手権A決勝進出。
そして全日本大学選手権優勝。
日本一で引退すること。
その先には、さらに大きな目標がある。
実業団で競技を続けること。
そして日本代表として世界で戦うこと。
競技を始めてまだ3年。
実業団には10年以上のキャリアを持つ選手もいる。
だからこそ、まだまだ強くなれる。
石田はそう信じている。
可能性は、自分で広げる

3年前。
新歓のオンライン説明会に参加していた石田は、今の自分を想像していなかった。
運動が苦手だった少女が、全国3位のアスリートになる。
人生には、自分でも想像していなかった可能性がある。
そのことを石田ゆきは、自分の挑戦で証明してきた。
水面の上でオールを握りながら、今日も前へ進む。
その挑戦は、まだ終わらない。
京都大学ボート部 /
