
横川 みどり(よこかわ・みどり)
1972年東京都東村山市生まれ。東大和市育ちで在住。保育士、幼稚園教諭としての経験を持ち、2012年、父の急逝を機に東京西サトー製品販売株式会社(現・株式会社NISHI SATO)の代表取締役に就任。社員第一の経営を貫き、企業主導型保育園「ベネチアンベイビー」の設立や、アスリート社員の採用、社内フィットネスの導入など、多角的な「働きやすさ改革」を推進。スポーツ庁や東京都からの表彰歴多数。
父の志を継ぎ、娘が社長に──“社員は家族”を経営理念に
「うちの父は、自分の背広を質に入れてでも社員にご飯を食べさせる人でした」
横川みどりは、創業者である父のそんな姿を思い出しながら語る。もともとは保育士として働いていたが、家業である東京西サトー製品販売株式会社(現株式会社NISHI SATO)に勤めることに。取り扱う製品は、スーパーなどで使われる値札やバーコードのラベル機器。人目につきにくいが、社会には欠かせない存在だ。
一時的に手伝うだけのつもりがいつの間にか熱中。2012年、父の急逝により代表取締役を継ぐことになった。経営のキャリアもない中での突然の転機。それでも、父が大切にしていた“社員は家族”という信念だけは強く受け継いだ。母親としては、常に子どもの健康には注意していたが、これからは社員も家族だ。
「社員が元気じゃないと、会社だって健康じゃいられない」
入社当時は父ともう一人の3人だけの小さな会社だったが、徐々に成長。横川が代表に就任後、さらに事業規模は拡大し、現在社員数は40人を超え、社名も「株式会社NISHI SATO」へと改めた。IT化、デジタル化にあわせて事業内容、取扱商品も増え、ますます発展している。
横川は、父の教えを「いまの時代」に合わせて翻訳していくことに力を注いだ。女性であり、母であり、保育士でもある自身の視点を活かして、次々と新たな改革を打ち出していった。
子育てと仕事の両立に挑む──保育士の原点が企業主導型保育園に

「仕事を続けたくても、子どもを預けられない」
保育士としての経験、3児の母としての実感、そして経営者としての人材確保という課題。そのすべてを重ね合わせて出した答えが、2019年の企業主導型保育園「ベネチアンベイビー」だった。NISHI SATO本社の1・2階を活用し、従業員と地域の子育て世帯に開かれた保育園としてスタート。これは単なる福利厚生ではなく、働き方そのものを見直すための挑戦だった。
「自分の子どもや孫を預けたくなる場所にしたい」
その言葉どおり、ベネチアンベイビーは単なる託児所ではない。現場の声を反映させた設備設計、スタッフ配置、そして温かい空気感。この取り組みは若い世代の採用にもつながり、社内の雰囲気も大きく変わった。NISHI SATOは、「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」や「Tokyo Future Work Award 奨励賞」など数多くの認定・受賞を受けている。
健康経営とスポーツ文化の導入──社員がヨガ講師に?

コロナ禍で社会に広がったのは、感染症のリスクだけではなかった。メンタルの不調や、運動不足による体調不良が多くの企業で問題となった。そんな中で横川が始めたのが「社内フィットネス」だった。
「健康づくりと、社内コミュニケーションの一石二鳥!」
最初は軽い発想だったが、ヨガに興味のある社員に資格取得をサポートし、社内講師として活動できるようにした。現在ではパーソナルトレーナー資格を持つ社員も生まれ、社員一人ひとりに合わせたメニューを組んで健康づくりを支えている。
この取り組みは「Sport in Lifeアワード(スポーツ庁)」で優秀賞を受賞。横川にとっては健康も、教育も、福祉も、スポーツもすべて“社員が自分らしく働くための手段”にすぎない。
アスリートに働く場を──デュアルキャリアの実現へ
そしてもうひとつのユニークな取り組みが、「アスリート社員」の採用だ。
立川アスレティックFCやアローレ八王子といったフットボールクラブの現役選手が、NISHI SATOの社員として働いている。彼らは午前中にチーム練習をこなし、午後から出社。一般的なフルタイムとは異なる時短勤務だが、そこに何の問題もないという。
「働く意欲のある人に就労の機会を提供することこそが働き方改革だと思います」
アスリートは勝負の世界で生きてきたからこそ、仕事にも高い集中力と責任感を持ち込む。実際、アスリート社員たちは確かな結果を残している。NISHI SATOの職場には、競技と仕事、両方に本気で挑む姿がある。

人を信じ、人に任せる──未来へ続く横川の挑戦
経営者としての横川は、いまもなお新しいチャレンジを続けている。地域連携、教育現場への関わりなど、事業は年々多角化している。
「私は、人が好きなんです。だからこそ、人にちゃんと向き合いたい」
社員が元気でいられる職場をつくること。それが会社の成長につながり、やがては地域社会全体の活性化へとつながっていく。保育士だった過去も、母としての経験も、いまの経営にはすべて活きている。
その根底にあるのは、「社員は家族」という父の教え。そして、それを令和の時代にアップデートしていく娘・横川みどりの挑戦だ。
株式会社NISHI SATO 公式サイト / ベネチアンベイビー
