有賀 千春（あるが ちはる）
神奈川県横浜市金沢区出身。4人兄弟の末っ子。幼い頃からスポーツ好きで、ソフトボール、バスケットボール、テニスなど様々な球技に親しむ。中学で陸上部に入部し、100mハードルに挑戦。高校では川崎市立橘高校に進学し、400mハードルに転向。青山学院大学ではオーバートレーニング症候群を経験するも、復帰後4年ぶりに自己ベストを更新。現在は大松運輸のアスリート社員として勤務しながら競技を継続中。
“負けたくない”──それが始まりだった
幼い頃から運動神経の良さを周囲に認められていた有賀千春。活発な4人兄弟の末っ子として育ち、遊びといえばボールを追いかける日々。スポーツは生活の一部だった。
中学に入学後、自然な流れで陸上部に所属し、最初に挑戦したのが「100mハードル」だった。
「ただ走るよりも、技術が必要で、難しい。だからこそ面白かった」
最初から結果も伴った。練習でも大会でも常に1番。けれど、地元の金沢区大会で初めて“本気の悔しさ”を味わう。
「1位だと思ってたら、その子がいたんですよ。私は2位。“負けたくない”って強く思ったのを覚えてます」
彼女を超えるために、練習の量も質も見直した。区大会、市大会、県大会とステージが上がっても、その子は前を走っていた。だが、それがモチベーションになった。有賀は、トップレベルの“背中”を追いかけ続けた。
400mハードルという“新たな挑戦”
高校は川崎市立橘高校へ進学。陸上部に所属し、顧問の先生から「400mハードル」の適性を見込まれた。
「最初は“長いしキツそうだな…”と思いました。でもやってみると、“工夫する余地がある”ことがわかって、どんどんハマっていきました」
400mハードルは、100mとはまったく異なる競技。走力、スタミナ、ハードリング、リズム感、すべてを高いレベルで求められる。「何をどう変えればタイムが縮まるか」を考える過程が、有賀の性格にフィットした。
2年時には全国レベルへ。3年生の時には怪我を抱えながらも、国体で6位入賞を果たす。
「悔しさもあったけど、やっぱり自分は“この種目でやっていきたい”と思いました」
タイムが縮まらない。勝てない日々が教えてくれたもの
青山学院大学進学後も競技は続けたが、環境は一変した。自分より速い選手、身体能力に恵まれた選手、レースの経験値が高い選手──自分の“限界”を何度も見せつけられる日々。
「中学・高校までは、“頑張れば結果が出る”って信じて疑わなかった。でも大学では、“頑張っても届かない”ことが増えて、自信を失いかけました」
さらに、練習を詰め込みすぎたことが原因で、オーバートレーニング症候群に。心と身体のバランスを崩し、一時は競技から離れる。
それでも、「やっぱり、走りたい」。その思いが有賀を再びトラックに立たせた。復帰後58秒台をマークし、実に4年ぶりの自己ベスト更新。
「努力って、ちゃんと報われるんだ。そう思えた瞬間でした」
アスリートとして生きる道。出会った“大松運輸”
卒業後も競技を続けたい。だが、生活も考えなければならない。そんなとき、有賀が見つけたのが「大松運輸のアスリート採用」だった。
「実家の近くに、こんなに理解ある会社があったなんて…。迷いなく応募しました」
勤務は朝6時から。ユニットバスなどの住宅設備をトラックに積み、現場に届ける。9時には仕事が終わり、そこから練習へ。午後はトレーニングとケアに専念し、夕方には帰宅できる生活。
「朝は早いけど、練習の時間も質も確保できて、本当にありがたい環境です」
ひとりじゃない。仲間がいる場所で、もう一度挑戦できる
陸上は個人競技、配送の仕事も基本的には一人。でも大松運輸には“仲間”がいる。様々な競技に取り組むアスリート社員が在籍している。
「競技は違っても、みんな“挑戦している”。だから話が通じるんです。孤独じゃないって、本当に大きいです」
職場の人たちからも、声をかけてもらえる。「応援してるよ」という言葉が、心の支えになる。
「感謝しかないです。私が頑張ることで、少しでも返していけたらと思っています」
まだ走れる。まだ戦える。
今、有賀の目標は明確だ。さらなる自己ベスト更新。そして、全国大会での入賞。
「もっと速くなれる気がするんです。正直、“もう無理かな”って思った時期もありました。でも、今は違う」
社会人として、競技者として、バランスを取りながらも本気で挑む毎日。その姿は、彼女自身だけでなく、同じように夢を諦めかけた誰かの背中を押している。
「私には、走る理由がある。応援してくれる人がいる。だから、私は走り続けます」
そのまっすぐな視線の先には、まだ見ぬゴールがある。
有賀千春の挑戦は、これからも続いていく。