
伊藤 諒 いとう りょう
1996年生まれ、大阪府出身。
中学でバスケットボール、高校でラグビーを経験し、畿央大学在学中にビーチラグビーと出会う。大学卒業後は小学校教諭として5年間勤務し、現在は市役所に勤務。社会人として働きながら競技を続け、AEGISの一員として全国大会優勝を2度経験。関西ビーチラグビー協会の一員として競技普及にも関わる。
ラグビーとは違う、もう一つの競技

ビーチラグビーは、まだ多くの人に知られていない競技だ。
砂浜で行い、タックルはなくタッチでプレーが切り替わる。人数は少なく、フィールドもコンパクト。その分、試合は止まらない。前へのパスも認められることで、展開は一気に加速する。
ラグビーでありながら、バスケットボールのようなスピード感と、ハンドボールのような空間認識が求められる競技。単純なフィジカルではなく、判断と連携が勝敗を分ける。
この競技に、伊藤諒が出会ったのは大学1年の冬だった。
それまで経験してきたラグビーとは、まるで違う感覚だった。激しい接触ではなく、軽やかに砂を蹴りながら展開されるプレー。そして何より、そこにあったのは純粋な楽しさだった。
気づけば、その空気に引き込まれていた。
砂がすべてをフラットにする
ビーチラグビーの本質は、砂の上にある。
踏み込んでも力が逃げ、思うようにスピードは出ない。だからこそ、体格差はそのまま優位にはならない。年齢も、性別も関係なく、同じフィールドで競い合うことができる。
実際、この競技ではベテランが若手を翻弄する場面が珍しくない。若さだけでは勝てない。むしろ経験のある選手の方が強い。
さらに特徴的なのは、ラグビー経験者が必ずしも有利ではないことだ。ハンドボールやバスケットボール出身の選手の方が、空間を使う感覚に優れ、スムーズに適応する。
伊藤自身も中学時代にバスケットボールを経験していた。その経験が、ビーチラグビーの中で自然と活きていた。
競技名にラグビーとつくものの、その中身は全く別のスポーツとも言える。
仲間とつくる、帰ってこられる場所

大学で出会ったビーチラグビーは、伊藤にとって単なる競技ではなかった。
人に惹かれ、空気に惹かれ、続けてきた場所。
卒業後は一度別のチームに所属し、全国大会出場も経験した。それでも、心に残り続けた想いがあった。
仲間ともう一度やりたい。
そして、帰ってこられる場所をつくりたい。
その想いから立ち上げたのがAEGISだった。
人が集まり、続いていく場所をつくる。競技としての強さだけではなく、居場所としての価値を持つチーム。それがAEGISの原点だった。
止まった時間と、積み上げた時間
しかし、その挑戦は順調ではなかった。
チーム立ち上げと同時に訪れたコロナ禍。大会はなくなり、活動も制限された。
思うようにプレーできない日々。それでも、完全に止まることはなかった。地方大会など限られた機会の中で、少しずつ積み上げていく。
この時間が、後にチームの土台となっていく。
限られた舞台で掴んだ頂点

ビーチラグビーには、全国を巡るツアー形式の大会がある。
東海・中部・関西・関東といった各地域大会を勝ち抜いたチームが、全国大会へ進む。B1プレミアム全国大会は、各地区代表4チームのみで行われる頂上決戦だ。
限られたチームだけが立てる舞台。
AEGISが優勝した年、彼らは決して本命ではなかった。速さはあるが、メンタルが整っていないと見られていたチーム。
それでも、試合を重ねる中で流れを掴んでいく。
強風。荒れるコンディション。
その中で問われたのは、フィジカルではなく判断だった。シンプルに、確実につなぐ。
その積み重ねの先に、日本一があった。
ビーチという特別な空間

この競技の魅力は、ルールだけでは語れない。
ビーチという空間そのものが、大きな価値を持っている。
視界を遮るものはなく、目の前には海が広がる。波の音が響き、潮風が吹く。
その中で体を動かすだけで、人は自然と解放される。
転んでも痛くない砂。怪我のリスクが少ない安心感。だからこそ、全力を出し切ることができる。
大人も子どもも関係なく、同じ場所で笑い合える。
それが、ビーチラグビーという空間の魅力だった。
プレーする面白さ、観る面白さ
プレーする側にとっては、安全に、全力で、楽しめるスポーツ。
全力で走り、転び、また立ち上がる。砂の上だからこそできる動きがあり、そこには他のスポーツにはない感覚がある。
一方で、観る側にとっても分かりやすい競技だ。ルールはシンプルで、展開は速い。プレーが途切れず、常に動き続ける。
さらに、観客との距離が近い。声が届き、空気がそのまま伝わる。競技でありながら、どこかフェスのような一体感がある。
広げるという挑戦

一方で、この競技はまだ発展途上にある。
競技人口は多くない。チーム数も限られている。
それでも、伊藤はこの競技を広げたいと考えている。
誰でもできるスポーツだからだ。
体格に関係なく、経験に関係なく、年齢に関係なく。誰もが同じフィールドに立てる。
そして、続けられる。
未来へ続くビーチラグビー

伊藤の目標は、勝ち続けることだけではない。
20年後、自分の子どもと同じフィールドに立つこと。
その時まで、この競技が続いていること。
それが何よりの願いだ。
ビーチラグビーは、まだ小さな競技かもしれない。
だが、その中には確かな価値がある。
砂の上で生まれるプレー。仲間とのつながり。そして、それを未来へつなごうとする人たちの存在。
伊藤諒の歩みは、そのすべてを体現している。
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