河手 祐天(かわて ゆうてん)

カバディ日本代表選手/IT企業勤務/日本カバディ協会理事

1997年、千葉県生まれ。幼少期からサッカーに打ち込み、高校まで競技を続けるも全国出場など目立った実績はなく引退。早稲田大学入学後、体育の授業で偶然出会ったカバディに魅了され競技を開始。わずか半年後の2016年、日本代表強化指定選手に選出。以後、継続して日本代表として国際大会に出場しながら、現在はIT企業で働きつつ、日本カバディ協会理事も務める。次なる目標は、2026年アジア競技大会・名古屋大会での活躍。

カバディとの出会いは“たまたまの授業”から

大学進学を機に、新しいスポーツに挑戦しようと考えていた河手が出会ったのは、まさかの「カバディ」だった。

「大学の体育で選べる授業のひとつに“カバディ”があったんです。正直、名前すら知らなかった。でも授業の先生が元日本代表選手と聞いて、それなら面白そうだと興味本位で履修しました」

鬼ごっこのようなルール、しかし実際にやってみるとまるで違う。フィジカル、スピード、そして何より頭を使うスポーツ。授業をきっかけに仲間たちと大会出場を目指して練習を開始。それが同好会としての第一歩となり、本格的な競技人生が始まった。

「初めて大会に出たとき、全国から集まった他大学の選手たちの本気に圧倒されました。喜びや悔しさの感情が一気に湧き上がってきた。そこからハマっていきました」

半年で代表強化指定選手へ。広がる競技人生

カバディを始めてわずか半年、河手は日本代表の強化指定選手に選ばれた。大学1年生の終わり、まさにカバディとの出会いからわずかな期間での出来事だった。

「もちろん周囲は驚いていました。でも、毎日夢中でやっていたし、試合や練習にのめり込んでいたからこその結果だと思っています」

大学2年のときには、インドで開催されたワールドカップに帯同。出場機会こそ少なかったが、世界最高峰のプロリーグ選手たちと同じ空間で過ごすこと自体が刺激となった。

「インドのスタジアムの熱狂はすごかった。観客の声援、空気、スピード……全部が違いました」

卒業と引退、そしてもう一度競技の道へ

大学卒業を目前にし、河手は一度カバディを辞めるつもりだった。競技環境の整備も進んでおらず、経済的な負担も大きかったからだ。

「正直、引退して普通に就職するつもりでいました。けれど、心の中に“このままでいいのか”という引っかかりがあって……」

再び海外の大会に出場した際、日本代表の一員として異国の選手と真剣勝負をする経験が、自分にとってかけがえのないものであると実感した。

「競技だけでは食べていけない。だからこそ、“カバディ+α”で生きていこうと決めました」

現在はIT企業の広報部門で働きながら、平日は仕事、夜や週末はトレーニングと試合。さらに日本カバディ協会の理事としても競技普及・運営に携わっている。

プレーヤーが支える競技。支える側としても全力で

競技としてのカバディは、南アジアを中心に非常に人気があり、バングラデシュでは国技とされるほど。一方で、日本ではまだまだ“知られていないスポーツ”だ。

「大会会場の手配、設営、当日の運営……選手も手分けして全部やるんです。コートのテープ貼りまでやる(笑)」

マイナー競技ならではの苦労。しかし、そこにこそカバディの魅力があるとも河手は語る。

「全国から集まった選手たちは、ライバルでもあり仲間でもある。試合が終われば道具を一緒に片付けたり、情報交換したり。競技でつながる“人の輪”があるんです」

攻撃はひとり、守備は“ひとつの生き物”

カバディの試合は、7人対7人で行われる。攻撃は常に1人で敵陣へ入り、タッチして戻る。対して守備は複数人で連携し、捕まえる。

「攻撃は個の力、守備は組織の力。そのバランスが面白い。特に守備は連携が命。一体感のある守備はまるで“大きな生き物”みたいに感じるんです」

スピード、フェイント、パワー、読み合い。あらゆる要素が詰まったカバディの奥深さ。ラグビーや格闘技のような肉体性と、チェスのような戦術性が融合している。

「もっと知ってほしい」競技の魅力を届けたい

まだ日本では無名に近い競技、カバディ。だからこそ、河手は「もっと多くの人に知ってほしい」と願っている。

「SNSでの発信やイベントなどもできる限り関わっていきたい。競技をするだけでなく、競技を伝えることも自分の役割だと思っています」

カバディを知るきっかけが“たまたまの授業”だった自分だからこそ、同じように思わぬ出会いで魅了される人が増えてほしい——そう願って活動している。

目指すは、2026年アジア競技大会の舞台へ

2026年、愛知・名古屋で開催されるアジア競技大会。その舞台に日本代表として立つことが、今の最大の目標だ。

「自国開催の国際大会って、選手人生でそう何度もあるものじゃない。だからこそ、絶対に出たいし、勝ちたい」

平日の仕事を終え、夜にトレーニング。週末は試合や遠征。すべてが簡単なことではない。けれど、あの日インドで感じた歓声の熱と、自分の中に芽生えた誇りが、今も彼の原動力になっている。

「競技を続けることは、挑戦の連続。でも、だからこそ面白いんです」

挑み続ける個の力と、支え合う組織力。そのすべてを身ひとつで背負って、今日も河手祐天はマットに立ち続けている。

一般社団法人 日本カバディ協会 公式サイト

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