
馬場 圭美(ばば・たまみ)
1990年、神奈川県川崎市出身。幼少期からスキーに親しみ、高校時代にアルペンスキー競技に本格的に取り組む。社会人になってからも競技を継続し、国内外の大会で多数の入賞・優勝経験を持つ。現在は株式会社ProVisionに所属し、仕事と競技を両立するアスリート社員として活動。日本障害者スキー連盟強化指定選手にも選ばれている。
スキーは「家族との遊び」だった
神奈川県川崎市で生まれ育った馬場圭美。雪とは無縁に思えるこの土地で、幼い頃からスキーに親しんできたのは、家族の影響だった。
「冬になると、家族で新潟や白馬へ行くのが恒例でした。最初は雪で遊ぶのが楽しくて。気づいたらスキーが大好きになっていました」
馬場にとって、スキーは最初から特別な競技ではなかった。誰かに褒められたいとか、勝ちたいとか、そういう動機よりも「楽しい」という感情が先にあった。
競技者としての自覚、そして世界の舞台へ
滑ることが楽しい。高校生になると、聴覚障がい者向けのスキークラブに加入。もうそれはスキーが「遊び」ではなく、他人と競う「競技」に。並行してパラ水泳(聴覚障害クラス)もするが、スキーがメインの競技。
雪の斜面を滑る。非日常。転んで、擦り傷や痣をつくることも日常だった。けれど「楽しいからまた滑る」。その繰り返しが、馬場をアスリートへと進化させる。日本障害者スキー連盟強化指定選手となり、長期間の合宿にも参加。
そして過去3度の世界大会の出場メンバーにも選出。
世界大会への出場はオーストリア、ポーランド、フランスなど複数回におよび、メダルも多数獲得。まさに“世界を舞台に戦うアスリート”となった。
明るさと粘り強さが武器──馬場圭美という人間
身長は小柄。滑るときの姿はスキー板に隠れてしまいそうなほどだ。それでも、圧倒的なスピードで急斜面を駆け下りる馬場には、誰もが驚かされる。
そのパフォーマンスを支えるのは、天性の明るさと、くじけない心。
「転んでも大丈夫!立ち上がればいい。また楽しく滑れる」
そんなシンプルな言葉の裏にある粘り強さは、日々の努力の積み重ねがあってこそだ。
アスリート社員という選択肢

新型コロナの影響で、かつて勤めていた契約社員の職を失った馬場。そんなとき出会ったのが、株式会社ProVisionだった。
「アスリート採用を行っていると聞いて、自分の想いを伝えに行きました」
ProVisionは「夢と理想の実現に本気で取り組む会社」をVisionに掲げ、多様性を尊重する企業文化のもと、2020年からアスリート採用を開始。馬場もその一員として迎えられた。
支え合う職場、ProVisionでの日々
馬場の勤務先は、みなとみらいのランドマークタワーの高層階。週5日勤務を基本としながら、ナショナルチームの合宿や遠征期間は柔軟に調整される。
出社時には、業務の合間に簡単な筋トレをすることもあり、職場でもアスリートらしさは健在だ。
「会社のSNSに、大会の様子や合宿の報告を載せるんです。同僚が、すごいね!って声をかけてくれるのが嬉しいですね」
彼女の活動は、社内のモチベーションやチャレンジ意識にも好影響を与えている。
パラリンピックへの道──「挑戦」は終わらない
馬場の出場する「IDアルペンスキー(知的障がいクラス)」は、現時点ではパラリンピックの正式種目ではない。
「自分の力ではどうにもならない部分だけど、もし採用されれば、絶対に挑戦したい」
すでに世界大会で実績を重ね、競技者としての地位を確立した今も、馬場の姿勢は変わらない。
「スキーはずっと、私にとって楽しいこと。競技になっても、それは変わらない。だから続けられるし、もっと強くなれると思ってます」
遊びから始まり、競技へと進み、今も変わらず「楽しむ」ことを大切にする。その姿勢が、これからの挑戦をもっと輝かせていくに違いない。