
鈴木 祐人 (すずき ゆうと)
ヘディスプレーヤー
1997年、岩手県盛岡市出身。
子どもの頃からサッカー少年。大学2年でヘディスと出会いその魅力の虜に。サッカー経験はあるから簡単と思ったが、小学生にも負けてしまい闘争心に火がついた。勝利のために技術を磨き、プレーを研究し挑戦を続け、2019年には日本オープン優勝。そして2024年にはついに世界チャンピオンへと昇りつめた。これからもプレーはもちろんヘディスの普及に挑戦していく。
「頭でやる卓球」──ヘディスとの出会い
見た目はコミカル、でも中身はガチ。頭だけを使って戦う異色のスポーツ「ヘディス」をご存知だろうか。日本でも少しずつ競技人口が増えているこのスポーツの第一人者が、鈴木 祐人だ。彼が「ヘディス」と出会い、魅了され、そして世界一にまで上り詰めるまでの道のりには、多くの挑戦と学びがあった。
ヘディスとは、卓球台を舞台に、ラケットではなく“頭”だけでボールを打ち合う競技だ。ゴム製のやや大きめのボールをヘディングで相手コートに返す、というシンプルなルールながら、その奥深さと運動量は侮れない。ドイツで誕生したこのスポーツは、今や世界大会も開催されるほどに発展している。
鈴木がこの競技に出会ったのは、故郷の岩手のショッピングモールで開かれていた地域大会だった。気軽な気持ちで参加した大会で、小学生に敗れるという苦い経験をしながらも、「もっと強くなりたい」そして「この競技を広めたい」という思いが湧き上がってきた。悔しさの中で芽生えた情熱は、やがて彼を日本の第一人者へと導く。
世界を目指す、マイナースポーツだからこそ見えた可能性

ドイツでは大学生を中心に急速に広まり、専用の用具も開発されるなど、ビジネスとしても成り立っている。競技の創始者はドイツ・カイザースラウテルンのスポーツ学生レネ・ウェグナー。彼がサッカーの練習場所を見つけられなかったことから、卓球台とヘディングで遊びはじめたことが発祥だという。
そのラフな始まりにもかかわらず、競技性やエンタメ性が評価され、今では企業スポンサーも付き、世界各地で大会が開催されるまでに成長した。
日本ではまだ知名度が低いが、だからこそ可能性も大きいと鈴木 祐人さんは言う。
「誰でも始めやすい。サッカー経験がない女性でもすぐにできるんです。全国大会に出たり、世界大会に行けるチャンスもある。これは他の競技にはない魅力です」
自身も21歳から競技を始め、27歳となった今では世界王者にもなった。競技の道と並行して、日本での普及活動にも力を入れている。SNSや動画配信を活用しながら、少しずつ注目を集めている。
人と人がつながる、マイナースポーツの温かさ

マイナースポーツならではの魅力として、選手同士の距離の近さも鈴木は強調する。遠征先では他の選手の家に泊めてもらうこともある。競技を通じて国を超えた友情が生まれることも、ヘディスならではの温かさだ。
「たとえば海外の大会では、知らない選手が空港まで迎えに来てくれたり、泊まる場所を用意してくれたり。そんな文化があるのがヘディスの面白さだと思います」
一見するとユニークで“ふざけている”ようにも見える競技だが、実際にやってみるとその戦略性や身体能力の高さに驚くという。ポジションのないシンプルなルールだからこそ、純粋な実力が問われる。研究を重ねることで戦術の幅も広がっていく。
動画とイベントで広げる、ヘディスの世界
「フォロワーはまだ5000人程度ですが、1本の動画で1万〜3万再生されることもあります。少しずつ反応が出てきていると感じますね」
現在は、YouTubeやSNSを活用した動画コンテンツの発信に加え、グッズ販売やイベント集客といったビジネスモデルの構築にも挑戦中だ。6月からは市民体育館などを活用した体験イベントを各地で開催予定。初めて競技を見る人にこそ、「やってみたい」と思わせる工夫を凝らしている。
「ルールがシンプルだから、1回やればすぐに楽しさが伝わる。最初は笑って見てた人たちが、気づけば本気で競ってる。それがヘディスなんです」
ターゲットは、20〜30代の“かつてガチ勢だった人たち”。学生時代に全国を目指していたけれど、今は少し距離を置いている。そんな人たちにとって、再び「競技者」としての熱を取り戻せる場所が、ヘディスだという。
自分の努力で世界と戦える場所

「今からサッカー日本代表になってW杯に出るのは難しい。でも、ヘディスなら自分の努力次第で世界と戦える」
誰にでも代表になるチャンスがあるというのも、マイナースポーツならではの魅力だ。全国大会に出場し、日本代表としてドイツに遠征する。そんな夢が、手の届く場所にある。
「日本では、まだ競技人口が少ない。でも逆に言えば、しっかり努力すれば全国大会に出られるし、世界大会にだって行ける。そのリアリティが魅力なんです」
「好き」から生まれる挑戦の連続
「僕はこの競技が好きなんです。好きだから頑張れるし、勝ちたいから練習する。世界のトップ選手を研究して、自分もその舞台に立てたことが嬉しいです」
鈴木は、競技者としての活動にとどまらず、指導者や運営者としてのスキルも磨きたいと話す。イベントの企画、ブランディング、スポンサー開拓──やることは山積みだが、すべては「ヘディスを広めたい」という想いからくるものだ。
「スポーツって、誰かの“きっかけ”になる力がある。僕自身、たまたま出た大会で負けたことがきっかけで今がある。だからこそ、今度は自分が“誰かのきっかけ”を作れるような存在になりたい」
今後は、自治体や学校との連携も視野に入れながら、体験の場を増やし、仲間を増やしていくつもりだ。
ヘディスを通して「挑戦する力」を届けたい
鈴木の言葉には、一貫して「挑戦」というテーマが流れている。誰かがまだ目を向けていないものに取り組むこと。評価されていない場所に価値をつくること。そして、自分自身を信じて可能性を広げていくこと。
「今はまだ小さなスポーツかもしれないけど、SNSを使えば全国にも世界にも届く。僕がやってきたことが、誰かのチャレンジの後押しになれば嬉しいです」
マイナースポーツという枠にとらわれず、自ら可能性を切り拓く、彼の挑戦は、これからも続いていく。
そして、彼のその姿に刺激を受け、新たに「自分もやってみよう」と思う人たちが現れる。そうして広がっていくヘディスの未来は、きっと明るい。