
山崎葵(やまさき あおい)
岡山県出身。筑波大学生命環境学群生物資源学類4年。筑波大学オリエンテーリング部所属。
高校では山岳部に所属し、山を歩き自然の中で活動することを楽しむ学生だった。2022年に筑波大学へ進学し、オリエンテーリングと出会う。
競技開始からわずか1年余りで頭角を現し、2023年に世界選手権(WOC)日本代表に選出。スイスで開催されたWOC2023に出場した。
同年夏にはチェコワールドカップ、フィンランド遠征にも参加し、北欧のテレインを経験。現在は世界のトップ選手と戦うことを目標にトレーニングを続けている。
自然や生き物への関心が強く、苔を愛する自然派アスリート。
座右の銘は自分との約束は守る。
森を読み、世界へ走る。オリエンテーリング日本代表・山崎葵の挑戦
地図を手に、道のない森を走る。
次に向かう場所は、自分で決める。
足元には落ち葉、目の前には木々が広がる。
頼れるのは手元の地図とコンパス、そして自分の判断だけだ。
オリエンテーリングという競技は、ただ速く走るだけでは勝てない。
地形を読み、ルートを考え、迷いなく進む力が求められる。
そんな競技と大学で出会い、わずか2年で世界選手権の舞台に立った選手がいる。
筑波大学オリエンテーリング部の山崎葵だ。
岡山の自然の中で育った少女は、いま世界の森を走っている。

岡山の自然の中で育った少女

山崎が生まれ育った岡山県の家の周りには、田畑と山が広がっていた。
季節ごとに畑の野菜が育ち、自然とともに生活する環境だった。
幼い頃から外で遊ぶことが多かった。
山に入り、友人と秘密基地をつくり、気になった植物や生き物を観察する。
そんな日常の中で、自然への興味は自然と深まっていった。
特に好きだったのが苔だった。
岩や木の根に広がる小さな緑の世界。
じっと見ていると、同じ苔でも形や生え方が違うことに気づく。
小さな植物の世界の奥深さに惹かれ、いつしか苔は特別な存在になっていた。
高校では山岳部に入る。
10kgのザックを背負いながら山を歩き、トレイルランをしながら自然の中で過ごす時間が増えていった。
山の中で過ごす時間は楽しかった。
しかしその一方で、ある感覚も芽生えていた。
登山は基本的に登山道を進むものだということ。
決められた道を進むことに、どこか物足りなさを感じていた。
その違和感が、後に出会う競技につながっていく。
運命を変えた2022年4月16日
筑波大学生命環境学群に進学した2022年春。
新歓期間に参加した体験会で、山崎はオリエンテーリングと出会う。
場所は栃木県日光市和泉。
2022年4月16日だった。
森の中に設置されたチェックポイントを、地図とコンパスを頼りに探す。
道はなく、進むルートも決まっていない。
自分で地形を読み、判断しながら進む。
その自由さに衝撃を受けた。
さらに印象的だったのが地図だった。
オリエンテーリング用の地図には、通常の地形図よりもはるかに細かな情報が描かれている。
小さな尾根や窪地、植生の違いまで表現されている。
地形を読み解きながら森を進む感覚は、これまで経験したことのないものだった。
山崎は筑波大学オリエンテーリング部への入部を決める。
そこから生活は大きく変わった。
週末はほぼ森。
練習や大会で山や公園を走り回る日々が始まった。
オリエンテーリングという知的スポーツ
オリエンテーリングは北欧発祥のナビゲーションスポーツである。
19世紀末、スウェーデン軍の訓練として始まり、現在では世界選手権やワールドカップが開催される国際競技へと発展している。
競技では専用地図とコンパスを使い、森の中に設置されたコントロールと呼ばれる地点を順番に回る。
特徴的なのはルートが決まっていないことだ。
選手は自分で最適なルートを考えながら進むため、同じコースでも通る道は人によって大きく異なる。
つまり、単純なスピード競技ではない。
走力
地図読解力
判断力
これらがすべて揃って初めて結果につながる。
世界では特に北欧諸国が強く、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーなどが強豪として知られている。
入部2年目で世界選手権へ
競技を始めてからわずか1年。
2023年、静岡県で開催された世界選手権日本代表選考会で山崎は2位に入る。
難しいテレインの中でミス率を10%に抑え、日本代表に選出された。
同年、スイスで開催された世界選手権WOC2023に出場。
ミドルディスタンス予選では24位となり、世界のトップレベルを体感した。
さらにチェコでのワールドカップにも参戦。
世界のトップ選手と同じフィールドを走る経験を積んだ。
フィンランドの森で見つけた成長のヒント

遠征の中で特に印象的だったのがフィンランドの森だった。
山崎はフィンランド・エスポーのクラブに参加し、約3週間のトレーニングを行った。
クラブハウスの外に出れば、すぐに森が広がっている。
ほぼ毎日、午前と午後の2部練習という環境だった。
森の中にはブルーベリーが広がっていた。
走っていると視線が低くなり、自然と実が目に入る。
しかし現地の選手はまったく気にしていない。
その違いに気づいた山崎は、視線を高く保つことを意識するようになった。
するとナビゲーションのスピードが上がった。
小さな気づきが競技力の向上につながる。
それがオリエンテーリングという競技の面白さでもある。
世界の森を自由に走るために
山崎は現在、筑波大学で生物や生態系について学んでいる。
自然を科学として理解すること。
自然の中を走り、身体で感じること。
その二つが山崎の中で重なっている。
目標は、世界の選手と対等に戦えるオリエンテーリング選手になること。
そして北欧の難しいテレインを自在に走れるようになることだ。
幼い頃、地図も持たずに山を駆け回っていた少女は、
いま世界の森を読みながら走り続けている。
Photo courtesy of IOF / Kristina Lindgren
