
森川 遥那(もりかわ はるな)
元テコンドー日本代表・強化指定選手。小学生から競技を始め、全日本選手権優勝、国際大会ベスト8の実績を持つ。
大学時代には韓国へ2度、イタリアとドイツへも「スポーツを通した国際交流をテーマに」留学し、スポーツと教育を融合した自己理解への関心を深める。卒業後はカナダでのテコンドーインストラクターを経て、現在は大手人材サービス会社でキャリアアドバイザーとして働く傍ら、「非日常体験×自己理解とキャリア支援」を軸にしたビジネスで起業。併せてテコンドー教室を運営。
スポーツで培った自己分析力を社会に活かし、誰もが“自分のわくわく”から未来を描けるような支援を行っている。
なんとなくが人生を変えた──テコンドーとの出会い
森川がテコンドーを始めたのは、小さな公民館の1室。週に1度、1時間だけのクラスだった。兄が家の近くで何かできるスポーツを探しており、代わりに見学に行ったことがきっかけで、偶然出会ったのがテコンドーだった。
「最初は習い事感覚。格闘技ということすら知らなかったけど、やってみたら案外楽しくて。ユニフォームも軽くて、イメージしていた武道とは違いました」。
始めはただの習い事だったが、次第に上手くなりたい、もっと知りたいと思うようになる。周囲の大人たちとの練習、コミュニケーションが刺激的で、競技へののめり込みは自然な流れだった。
型に挑む──自己表現としての競技テコンドー

テコンドーには組手と型(プンセ)という二つのスタイルがある。森川が選んだのは型。一定の動きを正確に、美しく表現する演武スタイルだ。
型は、強さの中に美しさや精神性が求められる。だからこそ、個性が出せる。自己表現に近いと思う。
毎日、動画を撮っては分析し、改善点を探しては修正する。大会では同じ課題を演じる中でも、点数にはばらつきがある。それが面白かった。
自分らしさって何だろう、どうしたら伝わる動きになるんだろう。そうやって考えながら取り組むのがすごく楽しかった。
ただ勝つことよりも、納得できる自分を探し続ける。その姿勢が、競技の枠を超えて今の彼女を形作っている。
東京五輪と支える側の気づき
森川が競技者として最も注目していたのが東京五輪だった。
しかし、テコンドーの型は正式種目ではないため、出場は叶わなかった。その代わり、彼女は運営側としてボランティア管理や競技運営に関わることになる。
「支える立場になったからこそ、初めて見える景色がありました。選手だけじゃない、数え切れないほど多くの人達の支えで、競技ができる。競技以外の活動に興味を持ちました」。
表舞台に立つことだけが挑戦じゃない。誰かの挑戦を支えることもまた、自分にできる戦い方だと知ったのだった。
海を越えて学んだ体験と言語を超えたコミュニケーション

大学時代、森川は韓国・イタリア・ドイツへ留学し、競技を通した国際交流と教育の融合を学ぶ。さらに卒業後はカナダに渡り、テコンドーインストラクターとして働く経験を積む。そこで感じたのは非言語の力だった。
言葉が通じなくても、蹴る・動くという体験を共有すると、心が通じる瞬間がある。それが嬉しくて、スポーツってやっぱりすごいと感じた。
世界を知ることで、日本での教育やキャリア形成にも課題が多いことに気づく。もっと本質的な理解が必要だと、帰国後に森川は動き出す。
自分ってなんだろう?を問う場所を作りたい

帰国後、森川は大手人材サービス会社へ就職、キャリアアドバイザーとして働き始める。そして並行して、非日常体を経た自己理解とキャリア形成をテーマにしたサービスも立ち上げている。
「広い世代で、何がやりたいかわからないと悩んでる人が本当に多い。でもそれって、自分を知る機会がなかったからだと思う」。
そこでは、スポーツ、アート、対話などさまざまな手法を用いて好きや得意を探すワークを提供している。目指す対象は小中高生から社会人、子育てを終えた主婦まで幅広い。
「キャリアって、肩書きや安定じゃなくて、自分らしさで活躍するための選択肢だと思う。その可能性を広げるお手伝いをしたい」と話す。
アスリートのキャリアもその先がある

森川は語る。私自身、競技をやってきたからこそ、アスリートのその先の壁の高さを痛感しました。
競技一筋だったがゆえに、社会経験が少なく、転職活動で苦労した経験があるという。日本代表として頑張ってきたのにと悩んだ時期もあった。
だから今は、スポーツ経験を資産に変えるための支援にも取り組んでいる。
「スポーツって、実は自己理解の宝庫なんです。忍耐力、目標設定、分析力。そういう力を言語化・見える化して、社会に伝えていけるような取り組みも広げていきたい」。
働くって、本当は楽しいもの
「仕事=大変とネガティブに捉えている子供たちが多い。でも、それって大人が楽しそうに働けてないからだと思う。
だから私は、大人が自分のワクワクを原動力に生きる社会をつくりたい。そんな背中を見て育ち働くことにポジティブなイメージを広げていきたい。」
働くことは、単にお金を稼ぐだけではない。自分を表現し、誰かとつながり、社会と関わること。それがきっと、未来を生きる子供たちにとっての希望になる。
挑戦とは、何か新しいことを始めることだけじゃない。自分を深く知ることもまた、立派な挑戦。
静かに、でも確かな強さで。森川遥那は、今日も誰かの踏み出す一歩を支えている。