
小杉 依理奈(こすぎ えりな)
Webデザイナー/日本ウォーキングフットボール連盟 理事。
学生時代からスポーツに親しみ、社会人になってからはフットサルチームで活動。「ウォーキングフットボール」と出会い、その魅力に惹かれて復帰。現在は日本代表選手として世界大会にも出場しつつ、デザイナーとしてのスキルを活かし競技の普及にも取り組んでいる。
走らないフットボールとの出会い──怪我が導いた新しいステージ

「走っちゃダメって、どういうこと?」
最初は正直、半信半疑だった。小杉依理奈がウォーキングフットボールの存在を知ったのは、前十字靭帯の大怪我でフットサルのピッチを離れていた時期だった。
それまでの小杉は、都内の女子フットサルチームに所属し、週に何度も仲間たちと汗を流していた。競技志向が強いわけではなかったが、勝利を目指して真剣にプレーする日々は、彼女にとって欠かせない時間だった。
だからこそ、怪我によってその生活が奪われた時の喪失感は大きかった。走れない、蹴れない、チームにも顔を出せない。そんななか、偶然目にしたのが「走らないフットサル」とも呼ばれるウォーキングフットボールの体験会だった。
「走らない、強いシュート禁止、接触プレー禁止──そんなルールで本当に面白いの?」
そう思いながら参加した初めてのゲームは、意外にも熱く、奥深いものだった。ポジショニング、視野の広さ、緩急のあるパス回し──一つひとつの動きに戦略があり、身体的な能力に頼らずとも勝負できる奥行きがあった。
三笘薫のようなスピードはあっても使えない。老若男女がイコールコンディションでプレーできる、まさに生涯スポーツを楽しめる。
「これならまた、ピッチに立てる」
そう感じた小杉にとって、ウォーキングフットボールとの出会いは、新たな“挑戦”の始まりだった。
フィールドを越えて──デザイナーから理事へ
その後、小杉はウォーキングフットボールを続けるうちに、競技の運営や広報にも携わるようになった。Webデザイナーとしての専門スキルが、競技の認知拡大に役立つことに気づいたのだ。
競技の魅力を伝えるため、連盟のWebサイトやSNS、ポスターや大会資料のデザインまで手がけるようになり、いつのまにやら日本ウォーキングフットボール連盟の理事としても活動。選手としてプレーするだけでなく、運営側として競技の未来にも関わるようになった。
「これまで“選手”としてしか関わってこなかったスポーツを、今は“つくる側”の視点で見ることができる。それはすごく面白い経験です」
自身の怪我を経て得た“スポーツとの新しい関わり方”が、他の誰かにとっても希望になるかもしれない。そう思いながら、小杉は今日も“走らない”フィールドを駆け巡っている。
世界へ──歩いてつなぐ仲間たちとの挑戦

2025年10月、小杉はスペインで開催される「FIWFA World Nations Cup」に日本代表として出場する。ウォーキングフットボールの世界大会で、各国代表と真剣勝負を繰り広げる舞台だ。
「勝ちたい。だけど勝つことだけが目的じゃない」
ウォーキングフットボールのプレーヤーたちは、互いに尊重し、楽しみながらプレーすることを大切にしている。国籍や年齢、性別や言語の違いを超えて、1つのボールを通じて生まれる交流が、この競技の最大の魅力だ。
ピッチの上では競い合い、笛が鳴れば握手を交わし、笑顔で記念撮影──そんな風景が、世界中の人々とスポーツを通じてつながる喜びを感じさせてくれる。
小杉依理奈にとっての「挑戦」とは
「挑戦って、何か大きな目標を達成することだけじゃないと思うんです。できないと思っていたことを“やってみる”こと、そこに一歩踏み出す勇気が、もう挑戦なんじゃないかなって」
怪我で一度はスポーツを諦めかけた。でも、その経験があったからこそ見えた世界がある。走れなくても楽しめるフットボール、競技者でなくても関われるスポーツのあり方──それらを通じて、小杉は今も“挑戦”を続けている。
彼女が目指すのは、「誰もがスポーツを楽しめる社会」。走れない人にも、ボールを蹴る力がない人にも、笑顔になれる場所を──。
そんな未来をつくるため、小杉依理奈は、今日も静かに、でも確かに歩み続けている。