紙本 諭(かみもと さとる)

1981年東京都八王子市出身。
東京学芸大学在学中に地域に根ざしたサッカークラブ設立を志し、2004年にアローレ八王子を創設。以来、クラブ代表として地域活動とクラブ運営に尽力し、現在は東京都社会人サッカーリーグ1部に所属。
サッカーだけでなく、バスケットボールやチアダンス、体操教室など多様なスポーツ・福祉活動を展開。地域密着型クラブとして、Jリーグ参入を見据えたクラブ経営と街づくりを並行して進める。
近年では「まごころの里プロジェクト」などを通じて、より広い地域連携と共創を実現しようとしている。


サッカーをしてビールを飲む。それが原点だった

学生時代の紙本は、スポーツを通じた生き方を模索していた。東京学芸大学に進学し、指導者を目指す空気の中で、自らの進路に悩む日々。そんな中、大学同期である鹿島アントラーズで活躍した岩政大樹のプレーに衝撃を受けた。自分はプレイヤーではなく、別の形でスポーツに関わる道を歩もうと決めた。

転機となったのは、ドイツの市民スポーツクラブの映像だった。年齢も立場も異なる人々が、同じグラウンドでサッカーを楽しみ、試合後には一緒にビールを飲みながら語らう光景。日本では想像もつかない光景に、「自分もこんなクラブを作りたい」と心が動いた。

それが、八王子で地域密着型サッカークラブを作るという構想のはじまりだった。


まずはヨガ教室から。ゼロから始まった挑戦

大学卒業後、いきなりサッカースクールを始めても信用は得られない。若さしかない自分に何ができるかを考えた結果、地域のお母さんたちに向けたヨガ教室を始めることにした。

チラシを自作して配り歩き、スタートした教室の初回参加者はたった一人。それでも紙本は嬉しかった。その一歩が、体操教室へと広がり、やがて子どもたちのサッカーチーム設立へとつながる。

5年目にジュニアユース、8年目にトップチームを創設。創立から20年を迎えた今、アローレ八王子は幼稚園児からシニアまでが参加できる総合型地域クラブへと進化している。


八王子と共に歩むクラブでありたい

クラブ設立当初から、紙本が大切にしているのは「地域とのつながり」。2016年からは八王子観光PR特使にも就任し、八王子の自然を活かしたキャンプ場運営や観光情報の発信など、地元活性化のための活動も継続してきた。

アローレ八王子は、単なるサッカークラブではない。地域に根ざした存在として、八王子の人たちに愛されるクラブを目指している。カテゴリーが低くても、八王子の色を大切にし、地元出身選手を育て、地元の子どもたちが夢を描ける場所にしたいという想いがある。

目標は、地元のこども達を育て、アカデミー出身選手を中心としたチームでJリーグに挑戦すること。地域の期待を背負って戦う。それが紙本の描く理想像だ。


多世代・多競技が交差するコミュニティへ

アローレ八王子は、サッカーだけでなく、チアダンス、バスケットボール、介護予防体操、太極拳教室など、実に多様な活動を展開している。なかでも特徴的なのが、こどもから大人まで参加するスマイルフットサルといった、世代を超えたつながりを生む取り組み。

スポーツはツールであり、目的は「街づくり」。その理念があるからこそ、活動は広がり、共感が生まれ、現在では100社近い後援企業がアローレを支えている。スポンサー企業との関係も、紹介によるつながりが多く、地元への信頼と発信力がクラブの信用を支えている。


すべての活動は街の未来へつながっている

クラブはNPO法人として運営されている。理由は明快だ。スポーツによる街づくりが目的であり、それがNPOの存在意義に合致するからだ。ただし、トップチームのJリーグ参入に向けては、今後の株式会社化も視野に入れている。

東京都リーグは、アマチュアカテゴリながら、下剋上を狙う元Jリーガーも参加する実力派カテゴリー。甘くはない戦いの中でも、確かな成長を遂げている。

2023年8月には、学校法人文化杉並学園サッカー部のグラウンドとしてナイター照明付き人工芝フルピッチのサッカーグラウンドが誕生。アローレ八王子が管理・運営している。素晴らしい夢舞台の誕生。

2025年1月からは、クラブハウスに隣接する修道院跡地を活用した「まごころの里プロジェクト」が始動。地域の資材や廃材を用いて、子どもたちが自然と触れ合える公園を自分たちの手で作っていく。そこに関わる大人たち、地域の人々とともに、公園もまた街づくりの一部として育てていく。


Jリーグが最終目的ではない。そしてその先へ

紙本は語る。「八王子には独特の独立意識がある。東京と括られると、なにがが違うと感じる。だからこそ、この街でクラブを成功させたい。応援してくれる人たちに、必ず恩返しをしたい。」

サッカーを通じて街をつなぎ、育て、動かしていく。その原点は「サッカーをして、ビールを飲む」という、シンプルで豊かな時間だった。そこに夢と挑戦が加わり、アローレ八王子は今、八王子の未来を背負って走り続けている。

アローレ八王子スポーツクラブ / アローレ八王子